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株式会社綱八 代表取締役社長志村 久弥さん(3/3)


『私の地図帳』は、様々な分野で活躍するリーダーにインタビューし、地図を参照しながら人生の軌跡を追っていく波瀾万丈伝です。今回登場していただくのは、大正13年創業の老舗天ぷら専門店を営む『新宿 つな八』の3代目であり、株式会社綱八の代表取締役社長を務める志村久弥さん。新宿の地で確固たる伝統を築きながら、革新的な挑戦をも続ける志村氏ならではの世界観と、それを培った体験談をうかがいました。

フランス パリ

25年来の約束を果たすために

海外出店の目論見もありますが、いつか出店しなければいけない場所がフランスのパリです。私は27歳の時に結婚ましたが、フランスが大好きな奥さんにプロポーズするときに「将来はおまえのためにパリに店を出す」と言って、それから早25年ぐらいが経ってしまいました。なかなか実現しないので、そろそろ三行半を突き付けられるんじゃないかと、ちょっとひやひやしていますが(笑)。でも本気で出そうと思っていますし、実はパリはこれからがチャンスだと感じているんです。

向こうに知人もいて、何回もパリに視察に行きました。星付きレストラン含め色々な店を訪れましたが、やはりいま和食が空前の大ブームで、これからさらに盛り上がるのではないかと……。ようやくこのタイミングで「今まで待った甲斐があったね」と堂々と奥さんに言えそうです(笑)。

台湾

「人間性」が第一

やはり色々なお店からヒントを得たいので、国内外色々と食べ歩いてはいます。印象的なお店はたくさんありますが、やはりいい店、悪い店と判断されるときの最終的な決定打となる部分は「人間性」に尽きるのではないでしょうか。料理のクオリティーはもちろん大前提ですが、あとは店主との馴染み深さだったり、スタッフから漂う雰囲気だったり、そういった部分がポイントになってくると思います。そういう背景から、海外で一号店を出すのに最も良いのではないかと考えている場所が、実は台湾なんです。親日国ですし、日本の我々の店舗にもインバウンドブームのずっと前から台湾の方が来てくれていたという事もあります。日本との距離も近く、行き来もしやすいですしね。

出店を計画するときにはいつも、何度も足を運んで、人の流れを読み、どんな客層の方がいらっしゃるかということに注目します。台湾は香港にくらべて賑やかで中国らしい活気がありますが、それでもどこか落ち着いていて肌が合うんですよね。台湾で廻ったレストランは、どのお店も穏やかなホスピタリイティーに溢れていて、とても好印象でした。まずは台湾で挑戦してみて、成功したら、シンガポールやマレーシア、バンコクといった東南アジアの都市にも広げていきたいと思っています。

スペイン

天ぷらのルーツを探る野望

行ってみたい場所はいろいろありますが、敢えてあげるとしたらスペインの美食の町として知られるバスク地方、そしてスペインが誇る酒精強化ワインを生むシェリーの産地でしょうか。ワインが好きなもので、天ぷらとのマリアージュ(相性)を常に模索していますが、いまシェリーと天ぷらがいけるのではないかと思い、研究しているところなんです。シェリーの原料ぶどうとして知られるパロミノ種をステンレスタンクで醸した辛口白ワインがあるのですが、酸のバランスが良く実に天ぷらに合うんですよ。それ以外にもスペイン北西部のリアス・バイシャスのアルバリーニョ種も、魚介系の天ぷらにはぴったりです。スペインワインはコストパフォーマンスも良いし、益々進化していますから、いま特に注目しています。もともと天ぷらはイベリア半島がルーツで、『tempura』もポルトガル語やスペイン語が語源となっているという説がありますから、そうしたストーリーを考えてみても、やはりこの産地のワインは天ぷらに馴染むのではないかと思っています。だからイベリア半島を巡りながら「天ぷらのルーツを探る旅」なんてしてみたいですね。

ちなみに、ワインは30代の時から深く興味を持つようになり、40代になってから天ぷらとの相性を色々と考えるようになりました。今も周りの方に色々教えていただき、従業員と相談しながら、お店でもさまざまなワインの提案を行っています。またワインラヴァーのお客様と一緒にワイン会なども積極的に開催しています。ワインを通じてまた新しいコミュニティが広がっているのを感じています。

自然へ帰る時間を持つ

あともうひとつ、完全にリラックスする旅であれば、鹿児島が誇る自然豊かな島として知られる、屋久島に行ってみたいですね。周りの訪れた人みんなが口をそろえて「すごく良かった」と大絶賛するので。「標高によって一日で四季を感じる」とも聞いていて、どんなところなんだろうと。もともと信州が好きなように、時折ふと自然の中に身を置いて季節の移ろいを感じながら、心身ともにリフレッシュしたくなるんです。自分のホームタウンである新宿はやはり都会ですから、定期的に自然へ回帰する時間を持つことを必要としているのかもしれません。屋久島の大自然は、必ず一度は見ておきたいと思っています。

好奇心を忘れない

今の若い人たちに伝えたい事は、「常に好奇心やワクワク感を持ってほしい」ということです。それをきっかけに色々出会いがあり、その出会いからたくさんのことを学ぶことができる。これは若さの特権ですから。色々な挑戦によって感受性も養えますし、失敗があってもそれはそれでまた糧になり、最終的にはよい経験として蓄積されます。だから、頭でっかちになりすぎずに、まずは好奇心を大切に、思い切って一歩踏み出して欲しいですね。そこで見えてくるものが絶対にあると思います。