茂木社長

マンズワイン株式会社 代表取締役社長茂木 信三郎 さん(3/3)


『私の地図帳』は、様々な分野で活躍するリーダーにインタビューし、地図を参照しながら人生の軌跡を追っていく波瀾万丈伝です。今回登場していただくのは、キッコーマン株式会社にて醤油の海外普及に努め、現在は子会社マンズワイン株式会社にて日本ワインの啓蒙に勤しむ、同社社長の茂木信三郎さん。豊富な海外経験を持つ茂木社長ならではの各国での体験談や、日本ワインにおける今後の展望をうかがいました。

ドイツ デュッセルドルフ

わずかな一時帰国

10年間のアメリカ駐在を終えたあとは、日本での1ヶ月間の語学研修を経てドイツはデュッセルドルフに行くことになりました。一時帰国している間は先生についてドイツ語を学んでいたのですが、どちらかというと日本語をしゃべるのが好きな先生でして、あまりしっかりドイツ語を教えてくれなかったですね。だいたいは英語でしゃべって、彼に日本語を教えているうちに、あっという間に1ヶ月が経ってしまいました(笑)。

ドイツを拠点にヨーロパ全土を統括

こうしてドイツ語もままならないままドイツに渡ったのですが、私が行ったときはまだ工場はなく、需要が伸びてきた1997年にオランダに工場ができました。欧州販社の総支配人という立場でして、責任範囲がヨーロッパ全土にわたりましたから、よく出張に行っていましたね。ヨーロッパそれぞれの国にディストリビューターを置き、そこからスーパーやレストランに売るという仕組みでしたので、週に2回は出張し、それぞれの国の担当者と共にディストリビューターをまわっていました。支店がロンドンとパリにあったので、その2国は特によく行きましたね。

もともとドイツはある程度は醤油が浸透している国でした。どちらかというとドイツをはじめスイスや北欧、イギリスなど、北の国のほうが売れるんですよ。ダメなのは南のほうでフランスやイタリアやスペインは、独自の食文化が確立されてしまっているからか、全然売れなかったですね。当時はまだ日本食ブームでもありませんでしたから。そうこうしているうちにアメリカからヨーロッパへ「スシ」が入ってきて、次第に日本食が注目されはじめるようになってきました。

醤油の魅力を発信するために

ここで更に、どう需要を伸ばしていくかということを色々考えましてね。例えばフランス、ドイツ、イギリスの3ヶ国で現地のシェフや料理学校の学生を対象に『醤油をつかったレシピコンテスト』を開催して、啓蒙活動を行っていきました。優勝者は日本に招待して、提携先の日本の料理学校に短期入校してもらうんです。これは日本料理の技術や食材、日本の調理器具に関心を持っている多くの参加者にとって大きな魅力でしたし、日本の料理学校側もフランス料理の貴重な情報収集になるということで、お互いウィンウィンの関係を築くことができ、人気の企画となりました。こうした地道な宣伝販促活動が、多少なりともヨーロッパで醤油を身近に感じていただくための一助になったのではないかと思います。全く浸透していなかった地域のスーパーに少しずつ醤油が並び始めたときはとても嬉しかったですね。このレシピコンテストは今でも続いています。

また、当時キッコーマンは、ドイツ各地、ロンドン、ウィーンなどに『大都会』という鉄板焼きレストランを数店舗運営していました。こちらも醤油の普及が目的でしたので、肉に醤油をかけた様々な提案を行っていました。そのころ西洋では「肉にはステーキソース」が一般的で、醤油で楽しむという概念は殆どなかったんですよね。そこで我々は「醤油+マスタード」とか「醤油+ホースラディッシュ」といった、現地の人が親しみやすいような醤油ベースの独自のソースを提案していったんです。

それ以外にも、スーパーの店頭で醤油の実演販売をしたり、さまざまな企画の景品として協賛したりしながら、派手な宣伝広告とはまた違う、地道な草の根活動を行っていきました。

日本 西新橋

帰国……そして世界へ

7年間のドイツ駐在の後、2002年日本に帰国し、海外営業部に配属になり、営業部長を務めました。この部署は海外に販社がないところをすべて担当しますので、東京を拠点にしながらも中南米、中東、アフリカ、インド、韓国、中国、アセアン以外の東南アジア……など様々な国に出かけました。ドバイ、アブダビ、リヤド、クエートあたりですと、地域的に原則アルコール禁止なところが多く、それが辛かったですね。ドバイはホテルだったらお酒が飲めるとか、クエートは個人の家でこっそり高額で売られているとか、サウジアラビアはまったくNGだとか、それぞれ厳しさに違いがありましたが。出張して2日も禁酒しているとお酒が飲みたくてのみたくてね……。ロンドン経由のフライトが多かったのですが、帰りの飛行機のトランジットでロンドンに到着したとたん、ラウンジにいちもくさんに駆け込んでビールを飲んでいました。

その頃、台湾の大手食品会社と中国に合弁会社を作って、その役員になったので台湾、中国にもよく足を運びました。ブラジルにも行きましたが、この国は現地の醤油が強くて、日本の醤油を広めるのが難しく、いまだに苦戦しています。色々な国に出張すると、文化も食事も違うのでもちろん大変なこともあります。しかし、伸び悩んでいた地域に我々の醤油が少しずつ浸透していくのを見ていると、本当に嬉しいですし、これが大きなモチベーションに繋がりました。

山梨県 勝沼

醤油からワインへ

2009年、キッコーマンの執行役員を退任して顧問になり、それと同時にキッコーマンが持つ子会社であるマンズワインに移りました。そして2011年には現在のポジションである社長に就任しました。今は勝沼の本社で日々の会議や業務をこなし、お客様がいらっしゃるときは小諸のワイナリーにも出かけ、打ち合わせや食事会の為に東京にも通い……この3か所をぐるぐる回るような生活をしています。私はもともとワインを系統的に勉強したわけではありませんが、昔から量だけは飲んでいたので、その経験がようやく役立つときが来たのかもしれません(笑)。

マンズワインはワインの需要を増やすこと、そしてワインラヴァーを増やすことを目指しており、それぞれ性格が違うワイナリーを2つ持っています。一つは山梨県の勝沼に拠点を置き、需要を満たすためのスタンダード且つコストパフォーマンスの高いワインの安定生産を行っています。そしてもう1つの拠点は、我々の「挑戦」でもある長野県の小諸にあるワイナリーです。ここで目指すのはクオリティの高さで、「日本ワイン」ならではの個性を持った世界で通用するワインを「ソラリス」という名でつくっています。

長野県 小諸

日本ワインの更なる品質向上を目指して

いま「日本ワイン」という言葉が出ましたが、ワインの需要がますます高まっている中で、「日本ワイン」と「国内製造ワイン」の違いを明確に伝えようという国税庁のラベル表示の告示ができました。ご存知のとおり、「日本ワイン」は国産ぶどうのみを使用し、日本国内で醸造・瓶詰されたワインのことを指しますが、一方では、海外から輸入されたぶどう濃縮果汁及びバルクワインを原料として、国内で醸造・ブレンド・瓶詰されたものでも現在は「国産ワイン」を名乗ることができます。この告示の発表後はその区別がはっきりすることになりました。ようやく、「日本ワイン」に対する理解が格段に高まってきて、人々もこうした原料ぶどうから日本に根差したワインを求めるようになってきたのです。我々はこの動向をポジティブに見据え、日本ならではの魅力を持ったワインを多くの人に飲んでいただくために、日々ワインのクオリティの向上と普及に努めています。

ただし、普及といっても、広告宣伝はマス向けには殆どしていません。ワイナリーにいらっしゃるお客様向けにワイナリーツアーをしたり、ワイン好きの皆様と一緒にバーベキューをしたり、ワインパーティーに出席したり、本当にワインを好きになってくれそうなコアなファンに向けて積極的に訴求しており、そこから口コミなどで広がってくれることを期待しています。海外で醤油の啓蒙活動をしていた時のように、実質的な草の根活動が大切だと考えているからです。

ワインは非常に難しいところは、たとえマス広告で一時爆発的な人気になったとしても、毎年収穫できるぶどうには限りがあるので、生産量をそう簡単に増やせないということです。ぶどうは植えてもすぐに実りませんし、収量を増やしたところで品質が下がることもあります。農家さんとの良好な関係を構築して、良質なぶどうの安定した供給を維持しながら、じわじわとファンを増やしていけたらうれしいですね。

日本ワインの今後の展望

いま、日本ワインのクオリティは間違いなく上がっていますし、注目度もますます高まっています。値段がまだ高いですが、それでも高品質な日本ワインを飲もうという層も増えていて、マーケットも広がっていると思います。今後爆発的に売れるということはないかもしれませんが、「美味しいワインは値段が張っても飲みたい」という方々は更に増えていくのではないでしょうか。

最近では、日本ワインに特化したワインバーなんかもできていますし、日本ワインをリストに載せている和食店もよく見られます。これは一過性のブームではないと思うし、飲んでいただく皆様の期待に応えられるよう、品質面はもちろんコスト面での努力もしていかなくてはと考えています。景気との兼ね合いもありますし、ワインファンを増やしていくことは簡単ではありませんが、浮ついたものではなく、しっかりと着実に日本にワイン文化を定着させていきたいですね。

これからも旅を

仕事でさんざん色々な場所に行きましたが、駐在時代、バケーションではもっぱら南のイタリア、フランス、スペインに行きました。各地のオペラやルネッサンスの芸術が好きでしたから、特にイタリアはよく訪れましたね。またフィレンツェに行って、トスカーナのレストランでワインを飲んだり、シエナやサン・ジミャーノやボローニャあたりをゆったり巡ったりしたいです。ロンドンには姉が住んでいるのでいつでも行けますし、パリももちろん好きですし、スペインやフランスの田舎もいいですね。あとは、葉巻を買いにハバナに行きたいかな?あげればキリがないですね。今までは、海外に行くとどうしてもビジネスのアタマになってしまいがちだったのですが、次に訪れる時は、仕事から全く離れて、街並みや景色や食べ物を存分に満喫してみたいと思います。


企業情報

マンズワイン株式会社

www.kikkoman.co.jp/manns/